企業にとって年末の大仕事といえる「年末調整」。2020年から、この年末調整手続きが大きく変わることをご存知でしょうか。年末調整は企業だけではなく、従業員にとっても非常に重要な手続きです。
この記事では、以下の疑問について徹底解説していきます。
- 2020年から何が変わる?年末調整の電子化とは
- 年末調整手続きの電子化によるメリットはなに?
- 年末調整の電子化に向けたスケジュール
Contents
2020年から年末調整の電子化がはじまる
近年、確定申告や各種税務申告においても電子化が次々と進んでおり、2020年からは年末調整も電子化されます。
これまでの年末調整と具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
これまでの年末調整にはどんな問題点があった?
従来の年末調整では申告書や控除証明など紙媒体のものがメインとなっていたため、事務作業の効率化を図ることができませんでした。これまでの年末調整の流れは以下のように行なわれていました。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書や保険料控除申告書などの各種申告書の配布
- 従業員への各種申告書等や保険料控除証明書など提出書類の催促
- 提出された各種申告書の内容チェック(各種控除額の検算や書類不備などのチェック)
- 従業員ごとの控除額の計算から税額計算
- 各種申告書等の保管(マイナンバー管理も含む)
これらの手続きは従業員が多いほど1つ1つの作業の手間が増え、さらに、従業員ごとに扶養状況や控除の有無などが異なるため、その手間ははかり知れません。
しかし、この一連の手続きに含まれる紙媒体のものを電子化することにより年末調整手続きの効率化ができるようになったのです。
引用:国税庁ホームページ
【企業編】年末調整の電子化にはどのようなメリットがある?
年末調整を電子化することによって、さまさまな面での効率化を図ることができます。ここでは企業側からの視点で、メリットをいくつかご紹介します。
各種控除額の検算が不要になる
年末調整を電子化することによる大きなメリットとして、各種控除額の検算が不要になることがあげられます。
年末調整を電子化することにより、従業員が自動計算機能を搭載している専用ソフトウェアを使って各種書類を作成するため、控除計算の計算ミスを大幅に減らすことができます。それにより、給与担当者による各種控除額の検算事務が不要となります。
控除証明書等のチェックが不要(従業員が控除証明書等データを利用した場合)
これまでの年末調整では保険会社から紙で発行される控除証明書が必要でしたが、年末調整の電子化により、生命保険会社から送信される控除証明書などのデータを専用のソフトウェアに取り込むことができるようになります。それにより、これまでおこなっていた控除証明書と保険料控除申告書の突合作業が不要になります。
専用窓口の設置により従業員からの問合せが減少
従業員から給与担当者への問い合わせが少なくなることも、年末調整の電子化によるメリットの1つです。
年末調整の電子化に伴い、現在では「年末調整電子化ヘルプデスク(仮称)」と呼ばれる専用窓口が設けられる予定です。年末調整に関する質問や問い合わせもこちらの窓口で受け付けるようになるため、従業員から給与担当者への問い合わせが減少することが期待できます。
年末調整関係書類の保管コストの削減
年末調整の電子化により紙の資料がなくなることで、書類の保管コストの削減についても効果が期待されています。
現在、年末調整では次のような書類が必要となっています。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者特別控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
- 保険料控除証明書等
これらの書類は従業員1人あたりに必要なものであり(人によっては提出不要のものもある)、書類の提出期限である年の翌年1月10日の翌日から「7年間」保管しておかなければなりません。
そのため、これまでの年末調整においては書類の保管コストについても課題とされていましたが、年末調整の電子化により、書類の保管コストを削減することが可能となりました。
年末調整の電子化にはどのようなメリットがある?(従業員編)
年末調整の電子化によりメリットがあるのは企業だけではなく、従業員側にもいくつかのメリットがあります。
引用:国税庁ホームページ
控除額等の記入・手計算が不要
年末調整が電子化されると従業員がこれまで手計算でおこなっていた各扶養控除金額の計算や各種保険料控除の計算が不要になります。これは専用のソフトウェアを使用することにより、各項目を入力することで控除額などが自動計算されるためです。
また、マイナンバー制度を活用した「マイナポータル」※1 を使用することにより、各生命保険会社から発行される保険料控除データを専用のソフトウェアに取り込むことができます。そうすることにより、自動で保険料控除金額を計算することができます。
※1 マイナポータルとは・・・
マイナポータルは個人のマイナンバーを利用した政府が運営しているオンラインサービスです。マイナポータルでは育児や介護などの様々な行政手続きをワンストップでおこなうことができるほか、ネットバンキングなどを利用した公金決済もおこなうことができます。
控除証明書等データを紛失しても再交付依頼が不要
よくある年末調整時のトラブルの1つに、「控除証明書などの紛失」があります。年末調整が電子化されると控除証明書は紙ではなくデータとして受け取ることができるため、万が一、控除証明書をなくした場合でも控除証明書等データの再取得を容易におこなうことができます。
データ提出なら押印が不要
これまでの年末調整だと給与所得者の扶養控除等(異動)申告書などの各種証明書を作成する際に、氏名や住所などの情報を記載するほか、押印をしなければなりませんでした。
しかし、年末調整を電子化することにより、これらの各種申告書はデータとして提出することができます。そのため、申告書などに氏名などを記載する必要がなくなります。
勤務先からの問合せが減少
年末調整の電子化は給与担当者から従業員への問い合わせについても減らすことができます。すべての書類は専用ソフトウェアを使ってデータとして提出することができるため、計算間違いや記載漏れなどのミスを大幅に減らすことができます。
スケジュール
年末調整の電子化に向けてのスケジュールについてですが、実はひそかに進んでおり、国税庁ホームページを中心に様々な情報が発信されています。現在では年末調整の電子化に関する概要や、具体的な年末調整の手順、電子化に伴う準備事項などの情報が公開されており、「よくある質問(FAQ)」なども公開されています。
また、具体的なスケジュールについても公開されており、下記のスケジュール表を参考に準備を進めていくようにしましょう。
引用:国税庁ホームページ
このように2020年10月から本格的なサービス開始となっていますので、従業員への早めの周知などもおこなっていく必要があります。
まとめ
年末調整の電子化は企業や従業員にとって非常に大きなメリットとなります。しかし、これらのメリットをきちんと生かすためには、事前の税務署への届出、認識を深めることや給与管理ソフトウェアの準備などのハードウェア面での準備も必要となります。
電子化によって効率化を図ることができるにもかかわらず、認識不足・準備不足などによって逆に手間となってしまわないように、国税庁ホームページなどを参考にしながら早めの準備を進めていきましょう。