ペーパーロジック株式会社の独自の「緊急事態宣言下における会社員の出社状況」に関するアンケート調査で、
新型コロナウイルス下で緊急事態宣言下においても契約書や稟議等への押印のために、出社を余儀なくされている会社員が約4割、さらに「紙書類」のチェックや対応のために出社をしている会社員も同じく約4割いたということがわかりました。
対象となる書類は、1位に請求書35.9%、2位契約書28.2%、3位稟議書16.7%という結果に。
上長の口頭での承認も得ているのに、紙の書類、さらには「ハンコを押す」だけのために、自分の命を犠牲してると言われかねません。
そうならないためにもこの機会に「電子契約」の検討を進めるべきです。
この記事では「電子契約」について考えてみます。
Contents
そもそも電子契約とはなにか
電子ファイルをインターネット上で交換して電子署名を施すことで契約を締結し、企業のサーバーやクラウドストレージなどに電子データを保管しておく契約方式をいいます。
そして電子契約には、電子署名法の法律が関わったり、タイムスタンプという技術が必要になります。
電子署名法とは
電子署名を用いた電子契約が今爆発的に普及し始めています。それだけに、電子契約の有効性や証拠力は気になるところです。これを支える重要な法律の一つが、「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」です。
電子契約におけるタイムスタンプとは
タイムスタンプとは、電子文書の作成時刻に関する信頼性を担保するための、技術的な仕組み です。
タイムスタンプに記録される時刻以前に対象の電子データが存在したこと(存在証明)
その時刻以降電子データが改ざんされていないこと(非改ざん証明)
を証明します。
電子契約と書面契約の違いはなに?
2000年以降、「電子署名法」や「電子帳簿保存法」といった電子契約に関する法的環境が整備され、電子署名やクラウドストレージ等の技術的開発も進んでおり、電子契約を導入しやすい環境になりました。
日本の商慣習において当たり前に行われてきた「紙と印鑑」による契約締結だけでなく、電子契約による契約締結も徐々に増加してきています。
JIPDECの2018年調査時点で、すでに電子契約サービスの利用を「導入している」は 4割超、「検討している」が2割超と、合計6割超の企業が電子契約をなんらかのかたちで採用・検討しています。
今回の新型コロナウィルスでの緊急事態宣言下でさらに採用され、サービスも充実しさらに拡大をしていくことでしょう。
電子契約のメリット3つ
ここからは電子契約を行なう3つのメリットについて解説します。
印紙税の削減
電子契約は、紙の契約書との大きな違いとして、収入印紙によって納付する税金である「印紙税」が不課税となり、コスト削減ができるというメリットがあります。
電子契約を導入するとなぜ印紙税が不課税で、税金を収めなくですむのか?
その理由を理解する前提として、印紙税法を確認します。
契約書に収入印紙を貼ることで納税を行う義務は、印紙税法第2条および第3条に定められています。
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
印紙税法の第2条・第3条をよく読むと、「文書(略)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」との規定があります。どうやら、課税文書を「作成」することが課税のポイントとなっているようです。
ここで、課税文書の「作成」とは何か、印紙税法基本通達第44条に記載されている定義を確認します。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
用紙等に課税事項を記載し行使する、つまり紙の書面に書いて交付することが「作成」行為となります。
一方、電子データは紙ではありませんし、送信はしますが交付はしません。
電子契約(データ)を締結(送信)することは課税文書の「作成」に該当せず、したがって印紙税は課税されないというわけです。
電子契約をプリントアウトしたとしても、電子データの複製物(コピー)に過ぎないので、そこに印鑑を押すようなことをしない限り、課税物件には該当しません。
ここまで来ると、一休さんで出てくるとんちの事例のようです。
ですが、これらは税務当局見解や国会答弁においても、明確に述べられています。
企業間取引においては、基本契約で1通あたり契約金額によって1,000円〜10,000円の印紙を貼ることが義務付けられる案件も多く存在します。
例えば月に100件とか契約があった場合、それだけでも毎月最低でも100,000円が印紙代として無視できない経費としてかかってきます。
これらが合法的に節約できるのであれば、ありがたい話です。
業務の効率化につながる
書面の契約書は税法上、7年間保管しなければなりません。そのためのスペースを確保したり、膨大な契約書の中から必要な契約書を探す作業は、とても時間と人手がかかります。
一方、電子契約では契約書はすべて電子データのため、実際にスペースを確保する必要はありません。また、契約書を探したい場合には、検索条件を入力して検索すればデータを探すことができます。
電子契約にすることで、非常に大きな時間と労力を削減することができるといえるでしょう。
コンプライアンスの強化につながる
書面契約では、実は多くのリスクを抱えています。
たとえば契約書の紛失、盗難、災害時にオフィスが被害にあい契約書の復元ができなくなった、などの事例が多数あるのです。
電子契約であれば、契約書のデータはサーバー上に存在するため、書面契約のようなリスクをなくすことができます。
電子契約の注意点
ここからは電子契約の注意点について解説します。
導入時に社内外への説明や導入期間が必要
電子契約を導入するには、社内で利用方法などのレクチャーが必要になります。そのためのルールやマニュアル作りなども場合によっては必要です。
また、自社で導入できたとしても、電子契約の受信者側の理解も必要になります。
相手が合意することで契約は締結されますので、受信者である相手が電子契約を拒んで従来の書面による契約を希望した場合には、相手に合わせなければならないケースも少なくありません。
導入する電子契約サービスによっては、相手にも同様の電子契約サービスを利用してもらう必要もあるため、相手に費用を負担させてしまうこともあります。「自分たちのために同じ電子契約を使ってください」と言ったところで、相手にメリットがなければ同じ電子契約サービスは利用してくれません。
サイバー攻撃のリスクがないとは言い切れない
書面契約で文書の改ざんリスクがあるように、電子契約ではサイバー攻撃を受けるリスクがあります。
多くの電子契約サービスでは1箇所ですべてのデータを管理しているため、そこを攻撃されると情報漏洩してしまうという事態も考えられるのです。このようなリクスを下げるため、電子契約サービスではデータの暗号化を取り入れている場合もあります。
これから利用を検討している電子契約サービスでは、セキュリティ対策はどうなっているのか確認しておきましょう。
書面契約しかできない契約も存在する
契約方式自由の原則により、基本契約・秘密保持契約・売買契約・業務委託契約・請負契約・雇用契約など、ほとんどの契約において電子契約が利用可能となっています。
一方、電子契約が普及している中でも、消費者保護などを目的として、法律で書面(紙)による締結や交付が義務付けられているものも一部ですが存在します。
以下に書面が必要となる代表的な類型を紹介します。
- 定期借地契約(借地借家法22条)
- 定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)
- 投資信託契約の約款(投資信託及び投資法人に関する法律5条)
- 訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引における書面交付義務(特定商品取引法4条etc)
このような契約を扱う場合、電子契約の導入の前に、顧問弁護士にも確認の上ご利用いただくことをおすすめします。
まとめ
契約をデータ化し文書保存の負担を適法に減らすにはどうすればよいのか?
については、
という記事で電子帳簿保存法に定められた「電子取引のデータ保存」の義務と要件を解説しています。